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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#184 ヤバい、グッと来た

 
 トヨタ・タンク カスタムG-T 試乗インプレッション (2016.12)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 ここまで背が高い必要がどれだけあるのか、どれだけ、たくさんの荷物を積む機会があるというのか・・・という疑問はさておき、ひとまずこの種のカタチや収容力や室内空間をもつクルマをユーザーが欲しているから、ムダがあるとわかっていても、流行りに左右されているとわかりつつも理想やポリシーは捨ててメーカーはこういうモノをつくる、それだけのことである。それゆえに、作り手としてもあまり熱はこもらないだろうと想像もするし、目に見えるところだけわかりやすく作って、あとはテキトーに、というか、合理的に、カネもかけずに、と考える設計者がいてもおかしくはないと思う・・・が。



 エクステリア



 と、いうわけで、きわめて世俗的なデザイン。人相が悪い。もう少し穏やかで柔和な、あるいは端正な美しさというものは生み出せないのだろうか。もしくはそういうものとは受け入れられない、ということなのか。だとしたら世の中、どこか歪んでいるような気がしてならない。




 どこかで見たことのあるサイドスタイル。ま、こういうパッケージングなら、そりゃこういう見栄えになるでしょう。オリジナルでないとかなんとか、モンクのつけようはあるが、こういうものが欲しいから作れ、という声に応じているだけのことだから、そこはあまり言うまい。




 そんな中で、なんとかオリジナリティを、自分らしさを、ということで、線を入れたり曲げたり、凹ませてみたり、と、まあ、苦心の跡もあるわけで。ご苦労様なことです。



 運転環境



 ハンドルは手動チルト。シフトレバーはインパネに設置の上下スライド式。エアコン操作パネルはもう少し視力が落ちた人に優しくてもいい。反面、ナビは表示も大きく操作もしやすい、中年以上向け。個人的にステアリングスイッチはもう少し少ないほうが安全だと思う。目視操作が原則となるのはやはり危ない。アナログメーターは、先の大きく見やすく親切なナビと比べるとやや小さく「見えてしまう」というところもあるが、スッキリ、ハッキリした表示で、簡潔。これ単体では充分以上に見やすい。センターのマルチインフォメーションディスプレーはちょっと小さい。パワーウインドウは運転席のみワンタッチ。駐車ブレーキは足踏み式で二度踏み解除。ペダル類の操作感覚に違和感なし。着座点が高く見晴らし良好。無用にルーフだけが高すぎるという、この種のもの特有のムナシイ感じがあまりしない。ウエストライン(ウインドウ下端の高さ)も含め、自然な空間と視界。ナニゲによく考えられている。




 出窓部分のサイドウインドウはもう少し大きくしてくれたらいいのに、と思うが、有効な視界を確保。ピラー、ダッシュ上面の映り込み対策もぬかりなく、視界は全体的にスッキリ、ストレスがない。ドアミラーも過剰に撫で肩でなく、自車より外側を見せようという意思のあるもの。いつもの斜め後方実視界の画像はないが、ガラス面積も大きく、比較的ここもストレスなく見せているように思う。ここまで視野も広く、ガラス面積も広いとなると、個人的には好きではないが、ワイドルームミラーで広く見渡したいと思う人の気持ちがわかるような気がしてくる。



 インテリア・ラゲッジ



 トヨタ系のデザイン、とくにインテリアはとにかく昔から「ちょっといいね」とか「センスいいね」と心くすぐられるものが、「ない」。それを敢えて避けて嫌っているのか、わざとダサくしているのかは分からないが、タンクのインテリアも、この種の実用車ならもっとシンプルに明るい生活感を「連想」させる提案が盛り込まれていてもいいのに、そういう気概はとりあえず、「ない」。日本人の潜在的な美意識ってのはこういうものなんでしょう。




 前席のサイズはほどほど。もう少し大きくゆったりしていると心持ちもゆったりする。しかし、腰、背中のS字のフォローも良く、硬さも適度。また尻の部分と腰の部分のサポートのバランスもいいから、チョイ乗りでもフィット感と支え感のバランスがいい。昨今のトヨタ車のオヤクソクでヘッドレストも適切に後頭部をフォローし、安心感も高い。カラーリングは常識的。客がこれでいいというならそれでいい。ただし布のチョイスは、滑りにくさ、適度な拘束感など、身体、衣服に過剰に食いついたり滑ったりしない、ちょうど良い物を選んでいる。

前席頭上空間:こぶし3つ




 後席は見ての通り平板。そしてなにより、パタンパタンと容易に折りたたんでアレンジできることの方が優先だったり、チャイルドシートを括り付けやすくすることが大事だったりという種類のものであり、これもまた市場の要望だからそれに応じているだけのことであろう。世の中にはもっとちゃんと座れて、身体を支え、疲労を軽減するといった、本来的に人間の身体が感ずる満足度を重視しそれに貢献するリアシートはいくらでもある。でも、このクルマは、これが求められ、それに応じてこうなった、と理解すればいい。

後席頭上空間:こぶし3つ
後席膝前空間:後席スライド最前位置でこぶし2つ以上




 後部座席は6:4分割可倒。座面は一段低く畳み込むこともできるが、これが今時のクルマとして「ワンタッチ」にあらず、レバーを探してやや難儀したが、畳んでしまえばご覧の空間。畳まなくてもそれなりに余裕があり、後席スライドと調整しながら、荷物積載の相談が可能。



 エンジン・トランスミッション



 ダウンサイジングターボエンジン。1.5リッタークラスのパワーという謳い文句。もともとあった1リッター3気筒エンジンにターボ過給を施したもので、十二分にリニアで自然なパワー感だが、いわゆる自然吸気然としたもの、というより、やはり過給エンジンらしく、長い吸気の取り回しを巡り巡って、あるいは整流された空気がキレイにシリンダーに届き燃焼しているという印象のもので、全体的な印象はマイルドで優しく、静かでなめらか。振動や騒音もきわめて抑制されており、この種の、あるいは、この値段の、このクラスのものとして、妥協点が非常に高いエンジンという第一印象を持った。


 力の取り出しにもむろん不足がないどころか十分以上で、CVTは常にこのエンジンの魅力を心得てオイシイところを効率的に選び過剰に回転を上げるような真似はしない。その仕草も人間の五感に合っていて自然だ。それは確かに情熱的で人を焚きつけるような魅力に富んでいるというわけではないが、穏やかでいてパワフル、頼りがいのある、もっというと、じつに大人っぽい印象の走りを披露してくれる。洗練されている、と言ってもいい。そうした意味で非常に丁寧にチューニングされ、同時に乗り手にアラを感じさせまい、なんとか気持ちよく走らせてやりたいという志の高さをも感じる。大衆車の普及版ではあるが、精緻な仕事ぶりを印象付ける、一言に、いいエンジン、いいトランスミッション。カローラやプレミオへの上位展開、これなら充分に可能。




 試乗は、一般道と首都高速を半々ずつで約20キロメートルほど走っただろうか。走行前にリセットしたドラコンの平均燃費計は最終的に17.7Km・Lであった。首都高での渋滞もあり、幹線道路を気にせず流れに乗った。



 足廻り

 ベースがパッソと聞いている。平屋をベースにこうしたメゾネット(のような)つくりのクルマを仕立てると、どうしても無理が出る。まずサスペンションストロークがそれ用に長くなっていないコトが多いからジオメトリーを自由に設定できなかったり、上屋の傾きに対応しきれない傾向が出たりする。同時に凹凸の処理や音振動の抑制なども、どうしたってベース車よりオチることになる。しかし、このクルマではそうしたネガティブを感じることはなかった。




 フランス車のように鷹揚とした足さばきとは言わないが、素直に伸び縮みをし、そしてタイアが自然に、ナチュラルに路面に接地していることがわかる。ダメなクルマ、無理しているクルマというのは、タイアをゴリゴリとコジる傾向があるが、このクルマはあくまで自然体。だから生来的なロードノイズも低め。さらにはそれらが凹凸や振動の処理にも余裕を生んで、この手の、アシに無理が来そうなタイプのクルマとしてはいたって十全に、狙った通りの処理が出来ていると感じる。鏡のようにフラットでこそないが、かと言って突っ張るでもコワ張るでもなく、つねに素直。そしてやはり、乗り手、ドライバーに与える印象が優しい。ロールスピードやロールセンターの設定も頑張った痕跡があり、グラっと来ず、ハンドルも比較的リニアで手応えも自然。ハンドルを切るという行為がイヤにならない。稀代の名品でこそないが、目に見えないところをよくがんばってやってきている、その努力が伝わって来るのだ。



 結論

 トヨタ・タンクとこのシリーズの姉妹車。商品としてはあくまでも、クルマとしての正論を突き詰めて理想を見せつけるようなものというより、世間が欲しがっている、あるいは、大衆が「こういうの便利でいいよね」と思って買う理由にしていることが多いがために、このようなクルマを作りました、というものだ。今の日本、産業も空洞化ならユーザーも空洞化で、誰に向かって何を作ったらいいのかわからない、という時代がここ何年も続いているわけだが、そんな中で、確実に買う人が居るとわかっている商品をそこにぶつけるという売り方、作り方となっていくのは、自然なことではあるだろう。




 それはしかし、クルマに情熱を持って、あるいは、使命感を持ってクルマ作りに臨んでいるカーガイたちには意欲を削ぐようなことだってあるだろう。自分たちが丹精込めて作ったクルマが果たして正当に評価を受けるのか、受け入れられるのか、喜んでもらえるのか、響いているのだろうか・・・そんな期待や不安の中で、どうしても意欲不振に陥って、目標や理想がボヤけてしまうようになることだってないとは言えないと思う。そういうモノの象徴として、格好だけつくろって中身はどーでもいいような、抜け殻のようなクルマが世の中に一つでないことをこれまでも確認してきた。


 そうした中で、このタンクというクルマ、世の中の求めに応じただけの、一見、お手軽な発想のクルマに見え、実際にそういう設えも所々に散見される面もあるが、じつはよく考えられている運転環境に始まり、決して手を抜いていない静粛性、乗り心地、操安性、また静かでまろやか、同時に頼りがいのある気持ちの良いエンジン、トランスミッションに至るまで、隅々まで非常に手が行き届き、しかも目に見えない領域の入念な作り込みを感じさせてくれるものだ。そこからはメーカーやエンジニアの内自転や自己満足に留まらない、清々しい心意気のようなものがヒシヒシと伝わってくる。ましてそれをどこかの誰かのように「これみよがし」に見せびらかしていないところにグッと来るのである。


 「どうせユーザーにはわかりゃしないよ」、「この値段のこの客層ならこんなもんだろ」というような殺伐としたメッセージを感じることに・・・なるんじゃないだろうか、最初はそう思って何も期待せずにタンクに乗ったが、それは少しならずこのクルマに、「彼ら」に、失礼な先入観だったと思い直してドライバーズシートを後にした。多くの人々に彼らの頑張りが届くことを願いたい。





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 10項目採点評価

ポリシー >>> 7
デザイン >>> 6
エンジン・トランスミッション >>> 10
音・振動の処理 >>> 9
走りの調律 >>> 8
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ >>> 8
先進性 >>> 7
完成度 >>> 8
バリューフォーマネー >>> 8





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 試乗データ

試乗日:2016年12月5日
試乗車:トヨタ・タンク カスタムG-T
車輌本体価格:1,965,600円(OP別)
型式:DBA-M900A-BGBVJ
エンジン:1KR-VET [水冷直列3気筒DOHCインタークーラー付ターボ]
トランスミッション:CVT
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:3715×1670×1735m
ホイールベース:2490mm
車両重量:1100kg
最小回転半径:4.7m
タイア:前後175/55R15 77V (ダンロップENASAVE/EC300+)
JC08モード燃費:21.8Km/L
燃料タンク容量:36L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:前二枚のヒンジドアと後席両側スライドドアにテールゲートを持つワゴン
ボディ色:ブラックマイカメタリック<X07>×レーザーブルークリスタルシャイン<B82>[XG3]
内装色/シート素材:ブラック/ファブリック・専用(撥水機能付)
装着されていたオプション:
     2トーンボディカラー(86,400円)
     コンフォートパッケージ(22,680円)
     ナビレディパッケージ(29,160円)
     TCナビ9インチモデル「NSZT-Y66T」(252,720円)
     ETC2.0ユニット(ビルトイン・ナビ連動)(38,880円)





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 メーカーサイト

http://toyota.jp/tank/





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ご留意ください。
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要はありません。
私がここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」はあなた自身が見つけるものです。
また、製品は予告なく改良される場合があります。
時間の経過とともに文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前には必ずご自分で試乗をして、よくお確かめの上ご契約ください。





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2016.12.8
前田恵祐

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