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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#185 理屈がウザい

 
 トヨタ C-HR ハイブリッドG/1.2ガソリンG-T 試乗インプレッション (2016.12)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください


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 現代のクルマに対して、個人的に抱いている悪印象の総まとめのようなクルマ。事前宣伝でヤイノヤイノと口数多く喧しく、スタイルも直観で理解するというより、やはりメーカーやデザイナーの「説明」を聞いてから客が納得するような手順がこのクルマにはある。元をたどればジュークのパクリ的なアイデアでしかなく、走らせてみればどうってことはない、プリウスと大差のないクルマでしかない。そこを理屈や説明でハリボテにされた、じつに脂肪分の多い印象のクルマだ。



 エクステリア



 このクルマのスタイリングへの悪印象を言ってしまったけれど、何度でも言う。こいつはジュークがなければ出てこなかったデザインだ。ジュークを下敷きに顔にホウレイ線を刻み全体的に凸凹を強くし、トヨタの、アタマデッカチに考えるしか方法を知らない東大卒の秀才的造形作業によりフザケてみせているに過ぎない、なんともイタいデザイン。秀才のオフザケ、優等生のヘン顔。造形そのものの善し悪しというより、このデザインの後ろにある背景や心理があまりにも安物で、もう、どうにもならん。




 リアドアのドアノブがデザイン上、露出して見えているのはおそらく差別化というより、トヨタの内規でしょうね。誰もが見てドアノブと認識できなければならん、的な、と想像。それくらいデザイン的に消化できていない。アッタマ、固ぁ~。便利は便利だけど、と言わなきゃいけないのがなんともコンチクショウな感じ。




 よくもまあ、ここまでコネクリ回せたもんだ。


 デザインとは「削ぐ」という語意が含まれている。それはただ粘土を盛って削るという行為だけでなく、私利私欲をも削るという心理的な意味合いも色濃く含まれている。そのデザインという概念、削っていくという心理や過程の中でなにを求めながら作業を進めていくのかによって、出来上がりは全く異なる。純然たる美しさを求めるなら、C-HRのような形にはならない。美しさを求めるなら、内面からにじみ出る、しかも説得力を伴ったモノでなければならない、その意味でこの車の造形は差別化のための虚しい造形である。


 個人的に思う、ジュークは美しい。しかもそれまでになかった新しさがあった。そうした創作、創意へのリスペクトがあったなら、こういうことはできない。だから僕はこのクルマが大嫌いなのです。ジュークというクルマの美しさや造形的完成度の高さを認めながら、不遜にも堂々とそれを下敷きにし、さも自分の手柄のようにやってみせるという造形作業をゲスと言わず何を言う。同様のものとして、ヴェゼルならまだしも、ではある。しかしジュークの何年後だよ、今。



 運転環境



 ハンドルは手動チルトとテレスコピックで調整幅は大きい。ハイブリッドだがシフトレバーは従来式のロジック。駐車ブレーキは電気スイッチ。この試乗車にナビゲーションは取り付けられていなかったが、例のデカい画面のオプションが用意されていて、それをつけると、やはりメーターパネルとのサイズの差がちょっと気になる人もいると思う。ステアリングスイッチは現代の車としては常識的な操作感だが、もっと直観的に理解できるものの方が安全なのも同じ。エアコンの操作は簡潔でなかなかよろしい。パワーウインドウは4席ともワンタッチ。便利によくできてます、ハイ(笑)。




 Aピラー方向の視界はすっきりしている。ピラーそのものも細くしてあり、角度もいいからガラスへの映り込みも気にならない。三角窓も有効に視野を確保し、ドアミラーは例の撫で肩形状にあらずこれもキッチリスッキリ見せている。ダッシュボード上面はいろいろ工夫の痕跡はあるもののフロントガラスへの映り込みは免れない。が、色合いが濃色のためこれも気にならない。いろいろ配慮を感じるが、見切りの良さ、車両感覚の把握のしやすさはジュークのほうが仕事がうまいと思う。




 運転席からの斜め後方目視視界に関しては、振り返って目視するタイプの人向きではまったくない。



 インテリア・ラゲッジ



 昔のように土着的でこそないが、「立派」とか「見栄え」みたいなものを感じさせるインテリア。おそらく「ジュークはいいけどちょっと若作りだよなあ」、というようなトヨタの子飼い的ユーザー向けのデザイン。




 前席の座った印象はプリウスに似ている。特にサポートがいいとか癒し系だとか、そういう印象はなく、まあいつものとおりのトヨタ車という感じ。カラリングは地味。こういうデザインコンシャスなクルマというのは、外装色との様々な組み合わせを楽しむ、服を選ぶような感覚でもって買う側は喜ぶもの、と個人的には思うが、まあ、そのへん無頓着なのもトヨタ子飼いユーザーということなんでしょう。頓着というものがあるほんとうのオシャレ人はジュークを買うわけだ。そして今頃はもうジュークを降りているかも。

前席頭上空間:こぶし1つ




 後席の座り心地やサイズに不満はないけれど、やや気になるのは前席よりもヒップポイントが低められているような感じがするところ。天井が低く、頭がツカえるのを回避するための策と思われる。この、天井の低さに起因する理由でHVと4WDの組み合わせを搭載できなかったんじゃなかろうか、と勘ぐってみる。

後席頭上空間:こぶし1つ
後席膝前空間:こぶし1つ半




 車両サイズが大きいので、空間サイズに関してもジュークと比べるのは本筋ではないだろう。パーソナルカーというより、ファミリーカーとしても充分に役に立ってくれるのではないだろうか。と、思えば、カタログにもそれらしく、ファミリーユースの写真をガンガン載せている(2016.12時点)。



 エンジン・トランスミッション



 ほぼプリウスと同じ、そして走り味も同じ。特筆すべきことなし。しかしそろそろ日産も出してきたレンジエクステンダーが台頭してくると・・・




 試乗は、一般道と高速道路が半分ずつで約20キロ程度。その間のドラコンリセット後燃費は26.3Km/L。


<ガソリンターボG-T>



 こちらはガソリンターボのほう。高速、一般道半々で約10キロ走行。7.6L/100Kmの表示。エンジンは以前オーリスでも経験した1.2リッターのダウンサイジングターボエンジンで、C-HRへの搭載にあたってレギュラーガソリン仕様とされている。


 下からトルクが厚く力感を感じさせるアウトプットではあるものの、特別なめらかだとか気持ちいいとか、そういう情感はとくに生まれない。これはオーリスの時にも感じられたこと。あちらはCVTの制御がどーしようもなかったが、こちらはやや洗練が進んだ。


 でも、どうせならタンクの1リッター3気筒ターボにすればよかったのに。あちらのほうが100倍くらい見識は上。



 足廻り

 TNGAだのヨーロッパで鍛えただのとゴタクを並べているが、乗ってみればどうってことはない、いつものプリウスであり、トヨタ車である。まあ素直に曲がるし止まりもする。その観点から言えば合格。しかしそれ以上の心意気は感じない。悪くはないが、同時に深くカンドーできる代物でもない。トヨタが、ああいう「クルマ好きだと自分を思い込んでいる自社の客が好反応しそうなゴタク」を並べれば客をコロッと騙せると思っている証拠のようなクルマ。実際に事前試乗会で客がいい反応をしている様子さえ媒体で大々的に紹介しているが、そんなものいくらでも操作できる。もっと言えばそんなものでコロッといってしまうような客が相手なのだ。トヨタに限った話じゃないが。


 具体的には、第一印象として素直なストロークによるしなやかさを感じさせるものの、路面や凹凸の状況によってハッキリとゴツゴツした上下動が発生する。完全になめらかというわけではない。敢えてそうしているんではないかな。多少ゴツゴツしていたほうが客はスポーティだと感じるだろう、という読みがあるような気がする。なぜなら、ストロークの絶対値的にも稼げるこのタイプのこのクルマなら、もっとゆったりスムーズな味を引き出しやすい、が、それはやっていない。それでいて、グイグイ曲がるようにしてあるかといえば、そうでもない。比べると、ジュークは軽やかに曲がろうとするクルマだし、その代わりにアシが硬いことを容認している。そういう割り切りがあるというか、目的が明快な仕立て。こちらは明快でない。それが悪いとは言わないけれど。




<ガソリンターボG-T>

 ターボ車はややカタめ、というか、動きを渋くしてあるような印象。重厚感もあって、これもキャラクターかなとは思うが、最近の高性能車は乗り心地もすこぶる良い、という世界的トレンドを知っておくべきでしょうね。併せてハンドルも重い。それでいてアシはそんなに素直にストロークはしていないから、うねりに対してはフラットさを保つかもしれないが、微小突起への対応は上手くなくて明確な上下動を残す。一言で言うと、20年前のスポーティ。


 個人的には、どちらかを選べと言われればHV車を採る。いつものトヨタ車だが、それでいいや、と思わせる。



 結論

 そりゃ機械としての完成度は高いだろうし、買って大きくがっかりするようなところもないだろうと想像する。しかし、あまり晴れ晴れとした気持ちにならない、ような気がする。まず、あまりにも理屈やゴタクを並べすぎている。これは自信のなさの現れだ。デザインの良いクルマを売ろうとした時に、何よりセールスポイントとなるのは、いうまでもなくその姿カタチである。そこに言葉は必要ない。説得力のあるデザインを持てば、なにも説明をする必要がないのだ。しかし、デザインを売っているくせに、この口数の多さだ。この時点で胸を張れるデザインではない、ということがわかってしまう。美術館で絵画を鑑賞するのに、横からああだこうだと口を挟んでくるのはウルサイ、それと同じ。


 では、その口数の多い説明をしなければ、理解されないデザインなのか、と問われれば、それはきっとそうなんでしょう。トヨタの子飼い客はこの手のデザインを受け入れる素地がないから、ちゃんと説明しないとダメ、それに、説明しないと「やっぱりジュークに似てるね」で終わってしまう可能性もかなり高いから。




 「トヨタ自動車の狙った通り」にこのクルマを買うお客さんはいるでしょう。それなりの成績を挙げるかも知れない。素直に受け取れば、プリウスのSUV版ということにもなるし、プリウスに食傷気味の人たちの中にはこういう商品を受容する層もあるようにも思う。


 C-HRは、「ウチにもこういうのが欲しいよね」という、組織的理論から生まれたクルマだ。しかしデザインの良さをウリにしながら、デザインという行為に対する冒涜を内包している。組織論の前に創造力が踏みにじられているような気がして、どうしても好きになれない。どうせやるならオリジナルでやってやろう、ライバルをギャフンと言わせてやる、というような創造力や破壊力、あるいは心意気のようなものがまったくない。


 アタマのいい、ちゃんとした人が冷静にデータを分析して理論的に作る、それがトヨタのクルマづくりだが、でも、そうでないものを、という気持ちの表れがこのクルマなのだということもよくわかる。しかしそれは、学校の勉強が良かったというだけでは到底生み出せない領域のモノなのだ、ということを知るところからでないと始まるまい。一言に、理屈じゃない、ということである。





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 10項目採点評価

ポリシー >>> 3
デザイン >>> 3
エンジン・トランスミッション >>> 7
音・振動の処理 >>> 7
走りの調律 >>> 7
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ >>> 8
先進性 >>> 5
完成度 >>> 7
バリューフォーマネー >>> 7





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 試乗データ

試乗日:2016年12月19日
試乗車:トヨタ・C-HR ハイブリッドG
車輌本体価格:2,905,200円(OP別)
型式:DAA-ZYX10-AHXEB
エンジン:2ZR-FXE+1NM [水冷直列4気筒DOHC+交流同期電動機]
トランスミッション:電気式無段変速機
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:4360×1795×1550mm
ホイールベース:2640mm
車両重量:1440kg
最小回転半径:5.2m
タイア:前後225/50R18 95V (BSポテンザRE050A)
JC08モード燃費:30.2Km/L
燃料タンク容量:43L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:四枚のヒンジドアとテールゲートを持つSUV
ボディ色:メタルストームメタリック<1K0>
内装色/シート素材:ブラック/ファブリック+ブラウン/本革
装着されていたオプション:
     Bi-Beam LEDヘッドランプ(オートレベリング機能付) (151,200円)
      +LEDリヤコンビネーションランプ
      +LEDクリアランスランプ
      +LEDシーケンシャルターンランプ
      +LEDデイライト
     バックカメラ&リヤクロストラフィックアラート<RCTA> (37,800円)
     フロアマット(デラックスタイプ) (23,760円)





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 メーカーサイト

http://toyota.jp/c-hr/





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ご留意ください。
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要はありません。
私がここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」はあなた自身が見つけるものです。
また、製品は予告なく改良される場合があります。
時間の経過とともに文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前には必ずご自分で試乗をして、よくお確かめの上ご契約ください。





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2016.12.20
前田恵祐

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